今頃、なんだと言われると思いますが、エントリーします。
「今年もこの季節がやってきた!」七夕まつりへ向かうワクワク感です。
題して「レンズの向こうの夏の色。私の仙台七夕さんぽ 2025」
今年は、富士フィルムの新しいカメラです。
最後までお付き合いをお願いします。
「上杉の仙台七夕」上杉中央商店会が主催する「七夕夢ロード」

むわりと熱を帯びた風が頬をなで、ツクツクボウシの声が遠くに聞こえ始める頃。
ああ、今年も仙台に、大好きな季節がやってきた。
2025年、仙台七夕まつり。
多くの人の足が中心部のアーケード街へと向かう中、私の七夕さんぽは、いつも決まって少し北にある上杉近くの通りから始まる。
アーケードのような密集感はないけれど、広々とした空の下、一つひとつの飾りが思いっきり深呼吸しているような、そんな開放感がここにはある。街の景色が少しずつ変わるからこそ際立つ七夕飾りの存在感。そして何より、ここの飾りはどれもが大ぶりで、青空に負けないくらい堂々としているのだ。
だから私は、カメラに望遠レンズをつけて、通りの向こう側へぐっと焦点を合わせる。
ファインダーの中で、遠くの飾りと手前の飾りが重なり合い、背景の木々の緑や街の看板までもが色を添える。物理的な距離がレンズの力で「ぎゅっ」と圧縮されて生まれる、あの賑やかな世界。
バラバラのはずの景色が、レンズの向こうでは一つの万華鏡になる瞬間が好きだ。
さあ、今年最初の出会いは、どんな顔を見せてくれるだろう。
風に揺れる吹き流しに、そっと願いを込めてシャッターを切った。



荒町商店街の七夕
心地よい達成感に包まれながら、少し南へ歩を進める。
次に向かうのは、私がひそかに「吹き流しのメインストリート」と呼んでいる新町商店街だ。
ここの魅力は、なんといっても広々とした道路の両側に、色とりどりの大きな吹き流しがずらりと並ぶ、その壮観な眺め。風が通るたびに、巨大な色の束が一斉に波のように揺れる光景は、まさに圧巻の一言なのだ。
…のはずが。


今年はなんだか、どうもしっくりこない。
広い道路、絶え間なく行き交う人や車。どこに立って、どう切り取れば、あの息をのむような感動が伝わるんだろう。ファインダーを覗いては首を傾げ、数歩動いてはまた悩む、その繰り返し。
広角レンズで全体のスケール感を狙うと、一つひとつの飾りの繊細さがぼやけてしまい、かといって望遠レンズで飾りを主役にすれば、この場所ならではの開放感が失われてしまう。
「うーん、悔しい…!」
思わず小さなため息が漏れる。
この写真では、あの壮大なスケール感も、吹き流し一つひとつの美しさも、半分も伝わっていないのが本当に残念だ。私の腕の未熟さを痛感する。
でも、そんなふうに頭を抱えながら右往左往する時間も、また七夕まつりなのかもしれない。完璧な写真ばかりじゃ、きっとすぐに満足してしまうから。
「来年こそは、もっと素敵に撮ってあげるからね」。
心の中でそっとリベンジを誓い、少しだけ苦笑いを浮かべながら、次の角を曲がるのだった。
壱弐参(いろは)横丁の七夕
少しばかりしょんぼりした気持ちで、仙台で最も賑やかなアーケード、一番町を歩く。
左右に目を向ければ、企業の名前が入った豪華絢爛な吹き流しが、その美しさを競い合っている。それはそれで圧巻なのだけれど、今の私の心には、そのきらびやかさが少しだけ眩しすぎた。
そんな時、ふと、アーケードの脇道から手招きするように、裸電球の温かい光が漏れているのが見えた。
「壱弐参(いろは)横丁」。
一歩足を踏み入れると、空気は一変する。
そこはまるで、平成も令和も飛び越えて、昭和の時代へ続くトンネルの入り口。戦後の時代から続くこの横丁は、今も当時の熱気をそのまま閉じ込めたような、不思議な空気に満ちている。





狭く、低い天井の路地。
両側には小さな飲み屋や個性的なお店がひしめき合い、その軒先から吊るされた七夕飾りは、どれも手作り感にあふれていた。
ここには、何百万円もするような息をのむ飾りはない。
けれど、ここにはお店の人の顔が見えるような「物語」がある。
焼き鳥屋さんだろうか、串にみたてた短冊が下がっていたり、古着屋さんの飾りには可愛いボタンが縫い付けられていたり。思わずクスッと笑ってしまうような、遊び心に満ちた飾りたち。巨大な吹き流しを見上げるのとは違う、発見の喜びに満ちた宝探しだ。
手を伸ばせば、誰かが書いた願い事に指が触れられそうなほど、飾りとの距離が近い。少し背の高い人は、きっと頭をかすめて歩くことになるだろう。この親密さが、たまらなく心地いい。




荒町商店街では「どう撮ろう」とあれほど悩んだのに、ここでは夢中でシャッターを切っていた。情報量が多くてごちゃ混ぜの世界だから、理屈で考える隙がない。ただ「面白い!」「可愛い!」と感じた瞬間を、素直に切り取っていくだけ。
完璧な一枚を追いかけるのではなく、心が動いた一瞬を拾い集める。
写真の楽しさって、本当はそういうことだったのかもしれないな。
いろは横丁の温かい光に、さっきまでの悔しい気持ちがそっと溶けていくのを感じていた。
「サンモール一番町」の七夕祭り
裸電球の温かい光が灯る、昭和のトンネルを抜ける。
再び目の前に広がったのは、まばゆい光と色に満ちた、どこまでも続く華やかな大通りだった。
仙台七夕まつりの中心地、サンモール一番町。
もし、いろは横丁が個性派の役者たちが集う小劇場なら、ここは選りすぐりの主役だけが立つことを許された、きらびやかな大舞台だ。
(ここに、アーケード全体のスケール感がわかる広角の写真を挿入)
「わぁ…」
思わず、声が漏れる。
高い、高いアーケードの天井から吊るされた七夕飾りは、どれもが巨大で、立派で、そして息をのむほどに美しい。老舗の百貨店や有名店が威信をかけて作り上げた飾りは、まさに「作品」と呼ぶにふさわしい風格を漂わせている。
まるで、天から色鮮やかな滝が幾筋も降り注いでくるかのよう。
見上げる首が痛くなるほどのスケール感。風がアーケードを吹き抜けるたびに、巨大な和紙の束が「ふわり」ではなく「ごうっ」と音を立てて揺れる様に、ただただ圧倒される。
いろは横丁で一度リセットされた私の心とカメラが、この巨大な美しさに、今、真正面から向き合っていた。
新町商店街ではあれほど苦戦した構図探しも、ここでは不思議と迷わない。
広角レンズを空に向け、人の流れも賑わいも全部入れ込んで、このスケールの大きさをありのままに写し撮る。それが一番だと、心が叫んでいた。



手作りの温かさに触れる時間もあれば、職人技の粋を集めた「本気」に心を奪われる時間もある。
小さな路地裏での発見の喜びと、大通りで感じる圧倒的な感動。
この振れ幅の大きさこそが、仙台七夕というお祭りの、本当の魅力なのかもしれない。
サンモール一番町の光のシャワーを浴びながら、私はすっかりご機嫌になって、夢中でシャッターを切り続けていた。


夢中でシャッターを切るうちに、あれほど明るかったアーケードの天井の向こうが、いつの間にか深い藍色に染まっていた。
家路につく人々の賑わいの中で、ふと見上げた飾りの隙間から、優しく灯る提灯の光が目に映る。
今日一日で巡った、私だけの七夕さんぽ。
望遠レンズ越しに見た上杉の熱気。
「来年こそは」と唇を噛んだ新町の広い道。
迷い込んだ路地裏で心を温めてくれた、いろは横丁の小さな灯り。
そして、天から降り注ぐ色の滝にただただ圧倒された、サンモール一番町の光景。
一つとして同じ顔のない飾りたちを巡る旅は、まるで写真の楽しさそのものを巡る旅のようだった。
完璧な一枚を撮ることだけが全てじゃない。
思い通りにいかなくて悩んだり、予期せぬ出会いに笑ったり、ただただ目の前の美しさに心を奪われたり。そのすべてが、誰にも真似できない、私だけの「2025年の七夕ものがたり」になるのだと、今は思う。
たくさんの思い出と、来年へのささやかな宿題(新町商店街、見ていてね!)をカメラバッグに詰めて、心地よい疲労感と共に家路につく。
また来年。
この街が、一年で最も色鮮やかに輝く季節に。
最後までお読み頂きありがとうございました。
FUJIFILM X-T5 + フジノン XF70-300mm F4-5.6 R LM OIS WR
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