福島県保原町に、私の心を掴んで離さない一軒の小さな食堂があります。初めてその暖簾をくぐった時は、まるで昭和の時代に迷い込んだかのような、懐かしい空気に一瞬で魅了されました。使い込まれたテーブル、壁に貼られた手書きのメニュー、隅で流れるテレビの音。その全てが完璧に調和していて、ただそこにいるだけで心が安らぐようでした。
二度目の訪問は、その実直な美味しさが忘れられなくて。派手さはないけれど、一口食べれば作り手の愛情が伝わってくるような、温かい料理たち。そして先日、すっかり「お決まりの場所」となったこの食堂へ、三度目の訪問を果たしました。
よろず食堂
店内は、昭和の時代にタイムスリップしたかのような、どこか懐かしく落ち着く空間。壁に掲げられた豊富なメニューを眺めていると、私たちは食堂の常識を覆す、摩訶不思議な謎に直面しました。
通うほどに、その居心地の良さと味の深さに安心感を覚えるこの食堂ですが、実は、初回からずっと続く大きな謎が残されていました。それは、壁の手書きメニューに潜む、ささやかな、しかし非常に興味深いミステリー。帰り道の車内で「あれって、どういう意味なんだ?」と、いつも頭をめぐる謎のメニューです。


レトロな店内です。そして、以前から気になっている、壁に掲げられたメニューに潜む、カツ丼のミステリーです。そこには「カツ丼」と、マルで徳の字を囲んだ「㊕カツ丼」の二種類が。しかし、どういうわけか"特別"なはずの「㊕カツ丼」の方が、100円安いのです。



どうしても二つのカツ丼の違いが気になった私は、意を決して、お茶を運んできてくれた女将さんらしき方に尋ねてみました。
「すみません、このマルで囲んだ徳のカツ丼って、どんなのですか?」
すると女将さんは、にこやかに、そしてとても熱心に説明を返してくださいました。ただ、そのお話が、少し早口で、そしておそらくは温かい地元の方言を交えてのものだったのでしょう。一生懸命に耳を傾けたのですが、情けないことに半分も聞き取ることができません。何度も聞き返すのも申し訳なく、かといって内容がわからないまま注文するのも不安…。一瞬の逡巡の末、私は一番よく知る、慣れ親しんだ味を選ぶことにしました。
「じゃあ…普通の『カツ丼』をお願いします」
結局、謎の解明は宿題ということにして、私は一番無難な選択をしたのでした。

「カツ丼」(高い方)は、王道の「カツ丼」でした。脂身の旨みが楽しめる、ジューシーな豚ロース肉を使用。カツ丼の醍醐味である、肉の旨みと脂の甘み、そしてそれらが溶け込んだ割り下と卵のハーモニーを存分に味わいたい、という期待に完璧に応えてくれる一品です。



ちなみに、あと来店した常連さんの話では、「㊕カツ丼」(安い方)は、お店のサービス品としての「カツ丼」でした。こちらは、脂身が少なくさっぱりとした豚もも肉などを使用しているそうです。ヘルシーで軽い口当たりなので、「カツ丼は食べたいけど、脂っこいのは少し…」という方や、日常のランチとして気軽に楽しみたい方に向けた、お店の優しさが詰まった一杯なのです。
「よろず食堂」の二つのカツ丼。それは、単なる値段の違いではなく、お客さんの好みやその日の気分に寄り添ってくれる、素晴らしい選択肢でした。
さっぱりヘルシーに、お得感を味わいたい日は「㊕カツ丼」。
ジューシーな王道の味を、贅沢に楽しみたい日は「カツ丼」。
この謎が解けた時、私たちはこの小さな食堂のファンになっていました。保原を訪れた際には、ぜひこの奥深いカツ丼の謎解きを、ご自身の舌で楽しんでみてください。ご馳走さまでした。
店名 よろず食堂
住所 福島県伊達市保原町千刈1-7
電話番号 024-576-2721
定休日 不定休
営業時間 不明 10:30に行ったら営業してました
備考
